在宅医療について 家族と住み慣れた家で
2010年7月10日 沖縄タイムス投稿記事より
「僕は、これを望んでいたんだよ」。これは、がんで亡くなられた方が担当の訪問看護師さんにかけられた言葉です。急に具合が悪くなり通院ができなくなったため往診を依頼され、痛みや息苦しさに対してご自宅でモルヒネの注射や酸素吸入を始めた時にふと出た一言です。
元気な方でも病院に行き外来で診察を受け、薬局でお薬をもらって帰る一連の手間は負担に感じる方が多いと思います。体が不自由で歩けない方や寝たきりの方、あるいはがんや難病が進行して体力が無くなっている方にとっては、ご本人のみならず介護しているご家族にとっても大きな負担を強いられます。
それゆえに、多少体の調子が悪くても我慢される方も多いと聞きます。でも、体に栄養やおしっこの「くだ」が入っていたりすると定期的な診察を受けることが必要になり、通院治療にかかる負担は身体のみならず経済的にも大変重くのしかかります。
このような方々に対して医師がご自宅や老人ホームなどに赴いて診察を行うのが在宅医療です。在宅医療には、通院と同じように定期的に診察が行われる「訪問診療」と、臨時に行われる「往診」とがあります。病院医療との違いは、ただ診察の場所がご自宅になるということだけではありません。大まかに言うと「病院」が「病気を治す(延命治療)」が目的であるのに対し、「在宅医療」は「自分らしくより良く生きる(寿命までの生活)」であることです。
療養生活をどのように過ごすかを決めるのはご本人やご家族です。体調が悪いときは往診し、苦痛を和らげるため積極的に治療しますが、あえて治療は行わず、体調管理だけを行うこともあります。体に入っている「くだ」の交換や医療機器の管理、そして難病やがんの末期の方の看取(みと)りを行うこともあります。介護が大変であればヘルパーサービス、訪問看護の助けを借りることもできます。住み慣れた家、大切な家族とともに生活でき、体調が悪いときには迅速に対処してくれる、それが在宅医療の最大の魅力です。
高齢社会を迎え、今後寝たきりや体が不自由な方の増加が見込まれるため、国は在宅医療を推進しており、在宅療養支援診療所の制度が始まりました。在宅療養されている方が24時間医師のサポートが受けられるシステムで、沖縄県では60件余注)の診療所が在宅療養支援診療所として登録されております。在宅医の情報は地区の医師会や独立行政法人福祉医療機構のホームページ(ワムネット)でも得られますが、まずは担当の医師や病院に相談するとよいでしょう。
寝たきりで通院が難しい、最期はわが家で迎えたいという方、在宅医療を検討されてはいかがでしょうか。
注)2021年現在91カ所の在宅療養支援診療所および在宅療養支援病院が指定されております。