冬に多い「痔」

「痔」と聞いてドキッとする人は多いでしょう。日本人の二〜三人に一人が痔の持ち主なのですから。ところが、風邪をひいたらすぐ病院に駆け込む方も「痔」となるとそうもいかないようです。恥ずかしさがゆえに医師に診てもらうのを躊躇しているのでしょうか。あるいは「痔」くらいまずは自分で・・・とおっしゃる方も多いのでしょうか。しかし、かのナポレオンも「痔」のせいでワーテルローの戦いに敗けたのだと言われるほど侮れない疾患なのです。そもそも「痔」とはどのようなものでしょう。

 

痔核(いぼじ):

「痔」のうち6-7割はこの痔核と言われております。便秘や下痢の際の腹圧やいきみなどにより肛門のまわりに血行障害がおこるのが原因です。肛門の内側に発生する内痔核、外側に発生する外痔核とがありますがこのうち内痔核が八割を占めます。排便時の出血や肛門からの痔核の脱出などがおもな症状ですが感覚の無い直腸粘膜側にできますのであまり痛くありません。一方で外痔核は肛門の皮膚側にできますので肛門にしこりを触れ、痛みを伴います。これらの多くは坐薬や内服薬の治療で症状はよくなります。しかし出っ放しのものや出血の多いものなどは手術が必要です。また、血栓が詰まった外痔核などはかなり痛みを伴いますので薬で炎症が引くのを待つよりも局所麻酔で血栓を取り除く治療を行ったほうがよい場合もあります。

 

裂肛(きれじ):

硬い便による外傷が原因で肛門の粘膜が裂けた状態のものです。

大半は、坐薬や軟膏等の治療で治ります。 しかし、排便時に痛みや出血を伴うため、さらに便秘が悪化するといった悪循環がおこることがあります。慢性化した強い痛みのある方や肛門が狭くなっている場合は手術が必要です。

 

痔瘻(あなじ):

直腸と肛門の境にある肛門小窩というくぼみから糞便中の大腸菌による感染がおこり肛門のまわりが化膿したものを肛門周囲膿瘍(はれじ)と言います。最初は何となく重苦しい感じがするだけですが、徐々に腫れぼったくなり痛みが強くなってきます。自然に破れて膿がでることもありますが、応急処置として、外来で切開して膿を出すことが必要となります。これで痛みはとれますが、その後肛門小窩を入り口とし、膿が出た肛門の皮膚の傷を出口とした膿の管「瘻管」ができます。痔瘻が、別名「あなじ」と呼ばれるのは、この瘻管の形に由来しています。残念ながら手術以外に治療方法はありません。

 

 

少々専門的になりましたが大切なのは医師に診てもらうのを躊躇し、自己判断で誤った治療を漫然と続けると病状を悪化させたり「痔」でない病気を見逃す場合もあるので、一人悩まず受診することをお勧めします。

もし手術が必要な場合でも、現在では日帰りで行える手術方法もあり、手術後の痛みが少ないことや費用などの面でメリットも多いと思います。必ずしもすべての方が受けられるわけではありませんが、症状が出たら早い時期に専門医に相談されるとよいでしょう。

 

そして「痔」は何といっても予防することが大切なのです。簡単に言うと、①おしりの血行を妨げず、②よい便をすみやかに出し、③おしりを清潔にするということです。そのためには、座りっぱなしは良くありませんし、適度な運動とバランスのとれた食事、十分な水分補給で便秘を防ぎ、睡眠や休息でストレスをためないことです。毎日入浴をし、湯船につかって温めるのもよいでしょう。特に冬場は特に家の中にジッとしている時間が長くなり、運動不足からおしりの血行が悪くなりまた便秘も誘発するので「痔」になりやすいのです。起床時に一杯の水を飲み、腰を回す運動を一,二分した後にもよおした便意を、いかにチャンスを逃がさず素早くトイレに駆け込むかが勝負と言っても過言ではないかもしれません。朝起きてから会社に行くまでの時間がない人、一日中パソコンと向き合っている会社員、子供などの世話が忙しくなかなかトイレに行く暇がないお母さん、運動不足と疲労がたまっている人、などなど。「痔」とは現代人を象徴する「ストレス病」と言えるのかもしれません。